その日の夜、いつもよりだいぶ早い時間にお母さんが帰って来た。


笑顔で玄関のドアを開けたお母さんと、
目が合わせられない。



スーパーの袋をテーブルにのせると、
笑顔を崩さないままお母さんが口を開いた。



「りり花、会社に学校から電話があったわよ。
修学旅行、欠席で出したんですって?」



お母さんの顔を見ることができず、

下を向いたまま謝った。



「…ごめんなさい」



小さくため息をつくと、
お母さんはダイニングチェアに座った。



「そんなことをしても、如月さん喜ばないのよ。
わかるでしょう?」



「わかってる…」



「どうして、勝手に決めちゃったの?
せめて相談くらいしてくれても良かったのに」



「だって、相談したらダメっていうでしょう?」



「まあ…、そうね」



困惑しているお母さんを真っ直ぐに見つめて、
口を開いた。



「でも、おばさんのために休んだんじゃないよ。

私が修学旅行に行きたくないから…

私がここにいたいから休んだんだよ」



「そんなこと言って…」



「だって、もし、おばさんの具合が急に悪くなったらどうするの?

修学旅行中におばさんになにかあったら
どうするの?


それに…私が修学旅行に行ってる間、
玲音はひとりぼっちで待ってるの?」


病院へ向かう時に見せた玲音の不安そうな横顔を思い浮かべる。


玲音だけ休ませるなんてことは、できない。


私は玲音を一人にはしない。


じっとお母さんを見つめると、


「わかったわ」


とお母さんが諦めたように立ち上がった。