五日目の夕方、聖は予定通り特急電車で帰ることになった。迅と駅まで歩いて送った。私が買ったお土産と、トシさんの家からの野菜やつけものをボストンぎゅうぎゅうに詰め、聖は帰っていく。

「じゃあな、兄ちゃん。成仏しろよ」
「フツーに言ってるけど、すっごいワードだよ、おまえ」

ふたりは陽気に笑って、拳同士をぶつけた。
男同士、さよならの挨拶だ。これが今生最後の。
泣かないように、悲しまないように、まるで明日も会えるかのようにふたりは別れた。
改札に入る間際、聖が私に言った。

「マナカ、兄ちゃんのこと頼む。本当にくれぐれも頼む」
「わかったよ」

一瞬、聖の表情がぐしゃりと歪んだ。本当に本当に悲しそうに歪んだ聖の表情が悲しくて、痛いほどにその気持ちがわかって泣きそうになる。

「じゃーな」

しかし、涙を見せることなく、聖は電車に添ってホームを歩いて行った。その背中は去年よりずっと広くなったように見える。聖も大人に近づいて行くのだ。迅とはすでに違う時間軸を歩み出している私と聖に、胸が痛くて苦しかった。

「日が落ちるの早くなったなぁ」

走り出す特急電車を駅舎の横で見送り、迅が少しだけ寂しそうにつぶやいた。夏至は終わって、日は徐々に短くなる周期に入っている。
山の稜線に沿ってオレンジに変わりつつある空を眺め、迅に視線を戻す。
ぎょっとした。迅の左手の先がわずかに透け初めている。迅本人は気付いていないようだ。

「いこ、迅。私お腹が空いてきちゃって」

周囲にも本人にも透け始めた左手を見せたくなく、私は迅の左腕を身体に抱き締め歩き出した。
随分大胆な甘え方になってしまったと気づいたのは帰宅してからだった。