トシさんの家は山を背にした平屋の一軒家だった。古い農家といったたたずまいの邸宅は、築年数は経っていても立派で、ひとり暮らしには広すぎるように見えた。

門から玄関先までの庭部分はあまり整備されているとはいえない。門扉はさびつき、敷かれたじゃりからは雑草がぴょんぴょんとはみ出している。その横の敷地内にはひとりで世話をするには大きく見える畑がある。パッと見、ナスときゅうりが植わっているのは確認できた。開け放たれた門の内側にテント一つ分の無人販売スペースがある。

「野菜売りと年金で暮らしてるばあさんだからね。本当に何もないよ」

トシさんは私たちを玄関の横並びの縁側に通すと、自分は玄関から家の中に入っていった。
勘太郎の小屋は玄関と縁側の間にある。
私が台車を押さえている間に迅が勘太郎を降ろした。今度は勘太郎もわずかに四肢に力を入れてくれ、さっきよりスムーズに降ろすことができた。リードを小屋の横の杭にかけると、トシさんが麦茶の載った盆を手にもどってきた。

「あんたたち朝飯は食ったのかい?」
「いえ、まだです」

答えてからしまったと思う。朝食なんか振舞われてしまったら、迅は食べられない。変に思われるだろう。

「そうかい。じゃ、これでもつまんでな」

トシさんはガラスのボウルに入ったミニトマトをどかっと板敷の縁側に置く。つやつやしたミニトマトは、たぶん横の畑でトシさんが作ったものだろう。よかった、これなら私がいくつか食べて、迅は食べるフリでごまかせる。

「ありがとうございます。いただきます」

早速真っ赤なミニトマトを手にして、口に運んだ。普段は出されたものを積極的に口にする方じゃないけど、ごまかさなきゃって気持ちが私を動かした。
しかし、そんな気持ちで口に入れたのに、ミニトマトのあまりの美味しさに驚きで声が出てしまう。甘さと味の濃いことと言ったら!