失敗したかもしれないと迅に告げ、学校へ向かう。
終業式を終え、もし駄目なら伯母さんに直談判に行こうなんて思いながら帰宅すると、リビングのソファで迅が待っていた。

「春香おばちゃん、一回戻ってきてこれ書いていったぞ」

にやにやとダイニングテーブルを指差すので、覗き込んだ。
そこにはコピー用紙に残された走り書きのような手紙。

『夏休みは好きにしなさい。
予備校の休学届けは出しておきます。
学校が始まるまでに必ず戻りなさい』

短い手紙だった。
お母さんの字だ。いつも提出書類に書かれる字と同じ、急いだような書体だ。
一緒に置いてあるキーホルダー付きの鍵。封筒に一万円札が五枚入っていた。

「春香おばちゃんさ、ちゃんとマナカのこと理解しようとしてくれてるぞ」
「そうかな、それは自信ないけど」

お母さんがどう思っているかはわからない。あんな態度をとった私に怒っているかもしれない。案外、もう大学の学費も出さないなんて言われて、高卒と同時に家を追い出されてしまうかもしれない。

それでも、私は自分の本音を伝えた。たぶん、必要なことだったと思うから。

「明日には出発したいし、準備するね」

私は迅を見上げ、一生懸命笑った。

夏休みは明日から始まる。私と迅のふたりきりで最後の夏だ。