「真香、おはよ!」

学校に到着すると校門のところで優衣に会った。ポニーテール、体育のTシャツに制服のスカート。はつらつとした優衣は夏が似合う。

「今日こそ、夏休みの予定決めよ!」

今日も優衣はとにかく元気だ。いや、片想いの相手を失った私を元気づけようと、あれからはことさら明るく私に接してくれる。

「受験生だよ」
「でも、高校最後の夏じゃないの~」
「優衣は推薦狙いかもしれないけどね。私は一応受験生だから」

優衣は私の肩に腕をまわし、甘えた声で言う。

「いいじゃん、どうせ真香、志望校も楽勝でしょ。国内最高ランクの大学にさ。真香が桁違いに頭イイのってみんな知ってるし。本当はお母さん、海外留学とかさせたいんじゃない?」

どうだろう。私が言いだせば、お母さんは喜ぶかもしれない。でも考えたこともない。海外留学なんて。

「興味ないかな」
「うんうん、そっかそっか」

優衣は私が避けたそうにしている話題をこれ以上掘り下げる気はない。私が勉強もそれにまつわる色々も本質的に嫌っていると、優衣は知っているのだ。

「楽しい夏にしようね。お祭り行ったり、海に行ったり。そのくらいいいでしょう?」
「ううん、まあ……もう少し考えさせて」

優しい親友は必死なのだと思う。私に生きる喜びや楽しさを思い出させようとしてるのだ。そうしないと、迅を亡くした私は消えてしまいそうに見えていたのかもしれない。

だけどね、優衣、絶望の中に不思議な光が差し込んできたの。
いつ消えてしまうかわからない光だけど。

「真香、今日、ちょっと嬉しそうだね。何かあった?」

するどく聞いてくる優衣に私はようやく笑顔を返した。

「何にもないってば」

親友でも、この異常事態を話すことはできない。
迅はきっとすぐにいなくなり、私はまた絶望の海に投げ出されるのだから。
この束の間の夢みたいな日々は私だけの秘密にしておきたい。