恐怖の渦の中


素早く鍵を解除するとすぐさま無心で敦の家一直線で向かった。

俺が優しいと思われるのはそれはおかしな話だ。今回千恵の家に行ったのは心配じゃくて、あの現象に興味を抱いただけだ。
そう言い聞かせながら、必死にペダルをこいだ。

千恵の家から敦の家までは、さっき来た道より短い筈なのが着いた時には妙に息が切れた。着いた瞬間ドッと疲れが出てきて、脱力感で帰りたくも思えた。

敦の家のインターホンを押すと数秒後にドアが開き、中からパジャマ姿の敦が出てきた。

敦はとても顔色が悪く、気分が千恵以上に悪そうに思えた。敦と顔を見合わせた時、俺はブワッと汗が吹き出した感覚に襲われた。


「栄治か....何しに来たんだよ?」


いつもより暗く重いトーンだった。俺はその言葉に押し負け、発言を躊躇ったが踏ん張って喋る。


「ちょっとした事を聞きたくってな....お前、........最近普通じゃない女の人を見たりするか?」


俺は一瞬言葉を詰まらせた。敦の気分が悪いのは女の人が原因ではなく、里沙の死が原因で眠れないのかもしれない。だから、本当はもっと絞れるような事を言いたがったが、随分範囲の大きい"最近"と言った。

俺の問いに敦は目線を上にあげるだけで、顔は全く動かなかった。