恐怖の渦の中


俺はすぐさま加奈の肩を掴み、左右に振って見せた。加奈はまだ意識はあるようだがそれもか細い糸のよう、すぐに途切れそうな印象を受けた。


「本当に馬鹿だよねぇ〜そんな事をしてもだぁ〜れもここから生きて帰れないのにねぇ〜。そんなに死に急ぎたいんだったら、さっきの部屋で頼んでくれればよかったのにぃ〜。」


鬣犬は嘲笑うかのように言った。俺は鬣犬の力に適わないのは重々承知していた。だが、加奈が俺を庇って傷付いた事、俺を助けようとしてくれた心を侮辱されて何かが頭の中で切れる音がした。


「は....鬣犬ぁぁ!!!ふざけんなァァァァァ!!!」


俺はその圧倒的な力を理解しているのに、何も持たず、己の拳だけで歯向かった。傍から見たらただのヤケクソ、それこそ加奈が取った行動を無意味にするような行動だ。

鬣犬はニコニコ笑っている表情を戻し、無表情のまま食卓の方まで一気に下がり、部屋の角を曲がって姿を消した。


「ハァハァ...か、加奈!大丈夫か?おい!しっかりしろ!!」


俺はぐったりと倒れている加奈を起こした。右手に血がベッタリと付いていることを感覚的に理解し、心が握り締められている感覚になる。
とにかく加奈の意識を途切れさせないために俺は必死になって声をかけた。