俺はその事を頭では理解していたが、身体は動かず、死を実感した。
振り下ろした包丁が俺の身体を切りつける所で俺の視界は真っ暗になった。
よく本で読む現象、死ぬ時は痛みを感じずフッと意識がなくなる、視界が急に暗くなるという現象だと思った。
だが、そういう事を考えられる意識はあった。死を体験した人はいない、だからこんな感じかもしれないとは思ったが、不可解な点がいくつかあった。
目の前は真っ暗だが、妙に温もりを感じられた。癒されるような甘い匂いが漂い、同時に鼻をツンっと刺激する鉄の匂い。
瞼を開けている感覚があるが視界は真っ暗。
もはや自分が生きているのか死んでいるのかよく分からない状態だった。
視界の暗さがだんだん光と共に消えてきていた。暗さはどんどん横へとズレていく。
俺はその暗闇を目で追って驚愕する。
暗闇の原因は加奈だ。加奈は俺に覆い被さっていたのだ。加奈は床へズルリと倒れると、そこから血が床を染めていった。眼鏡は曇って割れており、目は閉じたままだ。
目の前には鬣犬が棒立ちしていて、赤くなっている包丁を見ながらニコニコしていた。
「何で自分から切られにいったのかなぁ〜。もしかして死にたかったのぉ〜?」
「か、加奈....加奈!」



