ガララ…!
突然、男湯の脱衣所の扉が開き、薔薇色の瞳の青年が顔を出した。
簡易な浴衣をまとった彼の髪は、色っぽく濡れている。
「…お。」
「「!」」
ソファに腰掛け、必要以上に近い距離にいた私とランバートは、はっ!とその場に固まった。
すっ、と離れていくランバートの指。
温もりの残る唇に、ロビーの冷たい空気が触れる。
「…ごめんね、ノアちゃん。」
(…!)
ランバートは、ばさり、と外套を翻し、ソファから立ち上がった。
そして、こちらを振り向くことなく背中が遠ざかっていく。
繋いでいたはずの片手が、相手を失ってもどかしく震えた。
「…悪りぃ。“イイとこ”邪魔したか?」
気まずそうに、だが興味津々といったロルフが声をかけた。
「ううん。…ふられちゃった。」
「はっ?」
なぜか、さらりとそう答えられた。
そう。
本心を告げる前に気持ちには答えられないと釘を刺されたはずなのに、私の心はやけに晴れやかで軽い。
それはきっと、ランバートが含みのあるセリフを残したせいだ。
“その先を聞いたら…俺はきっと、ノアちゃんしか見えなくなる”
「…ずるいよ…、そんな断り方…。」
階段の向こうに消えていったランバートに、ぽつり、とそう呟いた。
あの言葉が彼なりの優しさなら、その偽りの告白に救われてしまった私はうまく騙されていることになる。
(…本当に、あの人は分からない。)
出会ってすぐに私の心に踏み込んで、今では心の深い所に居座っておきながら
彼は、“本当の彼”から私を遠ざける。
戸惑いを隠せない様子のロルフは、眉を寄せながら私を見つめていた。
長い、長い夜が、しんしんと更けていった。


