それからの絃は、ぶりっ子を演じてみたり、持ってもいない色気を出そうとしてみたり、出来ないくせに料理をしてみたり……



どれも不発に終わっていたけど、それなりに見ていて飽きなかった。



不発って言ったけど、肉じゃがはまぁまぁ美味しかったと思う。



けど……



今回のことは別だ。



絃が、ましてやその友達がアイツを知っているはずがない。



朝早く出かけて帰ってきた絃は、とてもよく似ていた。



俺が本気で恋をしたアイツに。



アッシュブラウンの髪色。



軽くふわふわに巻かれたボブ。



インターホンが鳴って、葵が出た時、なんだか様子がおかしかった。



何かと覗こうとしたら、俺の気配を察したのか
『絃ちゃんが帰ってきたよ』
と俺の目に映らないようすぐにモニターを消した。



玄関のドアが開いてからも、なかなか絃は入ってこない。



それどころか、葵も出ていったきり。



話し終えてリビングに顔を出した絃は、アイツが家にやってきたと錯覚するほどに似ていたんだ。