「今度さ、同窓会とかしてみたいね。成人式は元中学で集まるだろうから」
「いいね、先生も呼んでみたい」
「吉木も来るかもな。あいつ地味に女子に人気あったから、呼んだら喜ばれるよ」
 吉木という二文字に過剰に反応してしまいそうになったのをなんとか堪えて、自然に笑顔を返した。吉木はきっと来ない。私が同窓会に参加する限り。そんなことを思っていると、宗方君が様子を伺うように、突拍子もない質問を投げてきた。
「……詩春ってさ、吉木のこと好きだったの?」
「え、なんで?」
 思わず否定する前に問いかけてしまった。だって、そんな風に思われる節なんて全くないはず。私と吉木の間に流れる空気はいつだってギスギスしていたはずだから。
「ありえないよ。私、嫌われてるもん」
「え、そうなの? 嘘だよ」
「嘘じゃないよ、面と向かって言われたもん」
 きょとんとした様子の宗方君に、私は畳み掛けるように答えた。嫌われているという表現はもしかしたら適していないのかもしれない。嫌われているより、恨まれているの方が正しい。多分。
「でも吉木、いつも詩春のこと目で追ってたよ」
「いやそれは、多分監視する目的で」
「詩春行方不明事件の時も、吉木が詩春を見つけたんだよね」
「あの時はお騒がせしました……」
そんな風に話していると、先頭を切って歩いてくれていた女の子が、ねぇ、と急に呼びかけてきた。
「さっきから話してる吉木って、もしかして吉木馨のこと?」
「え……、知ってるの?」
 私も宗方君も驚き声を重ねると、その女の子も驚いたように声を上げた。それから、「ちょっとまってね」と言って私達に自分のスマホを見せてくれた。
「この人でしょ? J大の登山サークル入ってるよ」
「え、亜里沙、吉木とどこで会ったの?」
 宗方君の質問に彼女は首を横に振った。
「ううん、会ったことはない。でも海外の山もがんがん登ってて、この容姿だしそろそろスポンサーとかつくんじゃないかって噂されてるよ。ほら、吉木馨でエゴサーチするだけでこんなに画像出てくる」
本当だ。そこには、大学生になった吉木がいた。そうか、ちゃんと高卒認定も貰って、大学に受かったんだ。髪の毛は黒のままだけど、長さは少しだけ短くなっている。細身だけど、よく見ると腕周りは前よりがっしりしてるし、背もうんと伸びている。登山用のウェアを着て、真剣な瞳で山を登っている彼の写真に、私は釘付けになってしまった。