「あ、詩春ちゃん、もう少しだよ。頑張って!」
 先を歩いていた女子グループとも、なんとか合流できた。宗方君曰く、あと数百メートルで到着するらしい。その言葉を信じ、ザクザクと土を踏みつけ歩いていく。もう少し、あともう少し、頑張れ私の足。
 そんな風に言い聞かせているうちに、段々と空がひらけてきた。周りの木々が少なくなり、傾斜も緩やかになっていく。着いたよ! という先頭の女の子の言葉に顔を上げると、そこには見たこともない美しい景色が広がっていた。今まで自分が登ってきた道のりを上から見下ろすと、こんな所を歩いてきた自分が信じられないほどだ。ここまで来れた、という自信が疲れた体の中にじわじわと染み込んでいく。
いつのまにか雨は上がっていて、レゴのように組み立てられた小さなビルが遠くに霞んで見える。そのまた向こうにある水平線に沈む夕日を見つめていると、自分の体がふわふわと浮いてしまうんじゃないかという気持ちになった。こんなに疲れていたのに、体が軽くなっていくなんて不思議だ。
「綺麗……」
 ぼそりと呟くと、宗方君が隣で静かに笑った。
「よかった、この景色を詩春に味わってもらえて」
「あの水平線まで飛んでいきたいと思うほど、感動してるよ」
「そんなに? 大げさだな」
「ううん、ほんとに。来てよかった……」
「次は筑波山登ろうぜ。あ、そうだ」
 しみじみ呟く私の横で、宗方君が思い出したようにリュックを漁り始めた。カメラを取り出し組み立ててから、サークルの皆に声をかけて、一箇所に集める。強いフラッシュが目に焼き付いたけれど、私は清々しい表情でちゃんと写っていると思う。それくらい、心が晴れやかだ。
「詩春、二人でも撮ろう」
宗方君に促されて、二人で夕日を指差して写真を撮った。思い切り逆光になってしまった気もするけれど、無事に初の山頂での記念撮影を終えた。
「良かった。この前会った時よりも、元気になってて」
「はは、この前バイト前だし新歓の勧誘集団に飲まれてバテてたからね」
「他にも何かいいことあった?」
「あー、うん。久々にね、沙子と万里に会ったの。きっかけは沙子が作ってくれたんだけど」
「え、三人で会ったの!? なんだよ、呼んでくれたらよかったのに」
拗ねたように口を尖らせる宗方君に、ごめんごめんと笑って謝った。そう、私はあの後三人で会う機会を設けて会った。万里には父のことは言わなかったけれど、聞かれたら全て話す覚悟で会った。だけど、集まってしまったら話したいことが次々出てしまって、それどころではなかった。万里は底抜けに良い子だから、深く問い詰めずに接してくれた。