「大丈夫、先輩もあと少しで引退だし」
「詩春、あんたなんでそんな良い子に育って……」
忍耐強い娘に育ったと勘違いをした母が、私をそっと優しく抱きしめてきた。すごく居心地の悪い布団に包まっているような気持ちになった。騙しているわけじゃないけど、良い子と言われるたびに、本当の気持ちを話すことがいつも少し億劫になってしまうんだ。

「あの人に似ないで本当によかった」
必ず言うだろうと思った台詞を吐き捨てるように言い放たれた。あの人とは、私の本当の父親のことを指しているに違いはない。私は表情を見られないように母の肩に顔を埋める。
どんな表情をしたらいいか、分からなかったからだ。

「詩春は、思いやりのある優しい子に育ったね」
まるで呪いの言葉のように、それは私の肩や首の後ろに重くのしかかった。