「なぁ、なのちゃん……っ。アイツと何かあったんだろ? だって朝陽は、いつだってなのちゃんのことを考えてたのに……」

「──うん。だからきっと、今の朝陽が本来の朝陽なんだと思う」

「……は?」

「朝陽はね、ようやく私から解放されたの。だからこれからは、自分のことだけを考えて生きていける。本来の自分を、ようやく取り戻せたんだよ」


私はリュージくんの言葉を遮って、ゆっくりと顔を上げた。

背の高い彼を静かに見上げれは、喉元を生温い風が駆け抜ける。

朝陽は私から解放された。

それはつまり、今私が言ったように、これから彼は自分の思うままに生きられるということだ。
自分のしたいことが好きなだけできる。

自分のためだけに大切な時間を使える。

けれど視線の先のリュージくんは眉根を寄せて、納得がいかないとでも言いたげな表情をして私を見ていた。


「朝陽が、自分のことだけを考えて生きていける……? 何言ってんだよ、アイツは今までだって、ずっと──っ!?」

「え……」

「……リュウ、朝からウルサイ」


その時、一際大きく声を張り上げた彼の肩に、長い指が乗せられた。

言葉を切られたリュージくんは、何事かと弾かれたように振り返り、目を見開く。