「こちらでございます。」



ふくに案内されて着いたのは、屋敷の中で一番広そうなお部屋だった。




「お連れ致しました。」


「どうぞ。」



ふくが声をかけると、義政さんの声が中から聞こえてきた。



部屋の中に入ると、真ん中に布団が敷いてあって、おじいさんがその上に横たわっている。

そのおじいさんの横に義政さん、そしてもう一人の男性が座っていた。



「おはよう、輝夜殿。早うから呼び立てして申し訳ない。」

「おはようございます。どうぞ、お構いなく。」



私が座ったのを見て、おじいさんが辛そうに身体を起こそうとしたので、義政さんが背中に手を当てて、起き上がるのを手伝った。



「初にお目にかかる、輝夜殿。儂は中御門家当主、義敦(よしあつ)と申す。」


「輝夜でございます。」


「あまり体調が優れぬゆえ、褥(しとね)の中から申し訳な…ゴホッゴホッ」


「いえいえ、お気になさらず!」



しかし、気になったことがある。
義敦さんは熱があるのか、顔が火照っているのに、毛布(平安時代にあるのかは知らないが)などの暖かい掛け布団が掛かっていない。


「あの、不躾だとは思うのですが…どのようなご病気なのですか?」


答えたのは義政さん。


「ふた月程前であったか…喉の痛みを訴えられてな、その後、このように咳、頭の痛み、熱まで出てきてしもうて…相当な悪鬼が取り付いておるに違いない。」



「え、それって…」



(ただの風邪じゃないの…!?)



(こんな薄着でいるから、こじらせてるんじゃないの!?
現代だったら風邪薬とか飲んで、暖かくして寝とけば何とかなるけど、まさかそんな都合の良い……あった。)


懐に入れておいた巾着袋の中をのぞくと、仕組まれていたかように風邪薬のパッケージが顔を出した。




「あの、ちょうど私、薬を持っておりまして…泊めて頂いたお礼に飲まれませんか?」



私の提案に真っ先に反応したのは、義政さんの隣りに座っていた青年だった。


「馬鹿なことを申すな!初めて会ったばかりの者を信用できるか!そのような怪しげな物、父上が口に入れられるはずがなかろう!」


(ですよねー。)


「こら、敦政(あつまさ)。」

制したのは義敦さん。

「輝夜殿、お心遣い感謝致す。この老いぼれの命、いつ終わるか分からぬもの。良ければその薬とやら、試させては頂けないだろうか?」


義敦さんは微笑む。


「は、はい!」


早速、ふくに頼んで水を持ってきてもらい、パッケージの注意事項などをよく読む。


(成人は1回2錠、1日3回か…)

消費期限は1年以上余裕がある。(現代の年から数えて)