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シュティーナが目を覚ますと、目の前に長い睫毛の寝顔があった。夢かなと思ったけれど、温もりが、夢ではないと静かに呼吸をしていた。
既に朝日が昇っていて、部屋が明るい。シュティーナは視線を戻す。静かな寝息は規則正しくて、サネムの綺麗な寝顔をずっと見ていたいと思った。
「ん」
ちょっと身じろぎをして、瞼がゆっくりと開かれる。青空色の瞳がシュティーナを認め、細められる。
「おはよう。起きていたの?」
「うん……」
シュティーナが微笑むと、サネムは指を頬に触れてきた。
「眠れたかい?」
「うん。そろそろ起きなくちゃね」
シュティーナは、掛け物で裸を隠しながら、体を起こした。すると、腕を引っ張られて倒されてしまった。
「わっ……サネム、なにするの」
「まだ、こうしていたい。もうちょっと寝ていよう」
「だって……朝食までに身支度をしないと」
「もう少しだけ」
子供みたいにねだるサネムの目に、つい負けて、シュティーナはサネムの胸元に潜り込んだ。ぎゅっと抱きしめられると、心の底から安心できた。
「朝食は、なにかしら」
「羊のチーズは食べたいね」
「賛成。果物も一緒に」
サネムの腕枕に頭を乗せて、思いつく果物を指折りで上げていく。
すると、シュティーナのお腹が鳴ってしまった。昨夜、あの騒ぎであまり食べられなかったから、お腹が空いて仕方がないのだ。
「お腹が空いた。やっぱり起きましょう、サネム!」
そう言ってがばっと起き上がって寝台から降りようとして、シュティーナは足を掛け物に引っかけてしまう。
「わあっ」
床にずるりと落ちてしまった。シュティーナの腕をサネムが掴んで、勢いを殺してくれたからよかった。
「もう、本当におてんばで仕方がないな」
「ご、ごめんね」
サネムは再び寝台にシュティーナを引き上げる。朝からなにをしているのかとシュティーナは顔を真っ赤にしてしまう。
(お互い、裸だし……」
昨夜はあまり見えなかったけれど、サネムの肌はきめ細かくて綺麗で、筋肉がふんだんについて引き締まっていた。見ているだけでドキドキしてくる。
俯いてしまったシュティーナにサネムは口づけした。軽く2回。そして深く。
「……いままできみに辛い思いをさせたからね。少しくらいおてんばに振り回されても文句は言えない」
「し、失礼ね。でも、あなたの相手に相応しいと思われるように頑張るから」
シュティーナは、離された唇が恋しくて、自分から再度重ねた。
「無理に頑張らなくてもいい」
「好きな人のために変わることは、悪いことじゃないと思う。それが成長するってことでしょう?」
微笑むと、サネムも笑ってくれる。それが嬉しくて、もっと笑顔を向けたくなるシュティーナだった。



