さっき雷に打たれたように感じた体は、今度は爆発してしまったような感じだった。

(どういうこと? サムは……サネム王子なの?)

「なんだ。ふたりは知り合いなのか?」

 カールフェルト王は不思議そうに声を上げる。この場にいるすべての人がなにも理解していないようだった。サム……サネム以外は。

「父上、兄上、ただいま戻りました」

 サネムの声が、空気を震わせる。

 カールフェルト王は手を挙げて側近に給仕や召使たちを下がらせる。部屋にはカールフェルト王とイングヴァル王子、サネム王子、シュティーナと父、イエーオリだけが残った。

「ご心配を……おかけしました。父上、兄上。お許しください」

 サネムは深々と頭を垂れた。

 その姿に、その場にいる全員が静まりかえる。長い間そうしていて、カールフェルト王が「サネム。顔をあげなさい」と言った。ゆっくりと顔を上げたサネムの目は、赤かった。

「なんとまぁ。俺の結婚話を聞きつけて、祝うために帰ってきたのか」

「そういうわけではないのだけど……兄上、すまない」

「あやまらなくてもいいさ」

 イングヴァル王子は立ち上がってサネムのところへ行き、抱き寄せた。シュティーナの座る椅子に二人の体がぶつかって衝撃が伝わる。

「無事で良かった。いちじは死んでいると思っていた」

 イングヴァル王子が冗談っぽく言う。

「俺がスーザントにいることは、分かっていたんだろう?」

「……まぁな」

 イングヴァル王子とサネムの背丈は同じ。髪の色も、同じ。

「なんだと。わしは知らなかったぞ」

「サネムが料理人をしていると知ったら、父上は絶対に連れ戻しに行っただろう」

「……父上も知っていると思っていたのですが」

「知らん! なんだ、お前たち、わしをのけ者にしたのか。酷い奴らだ」

「父上、俺がサネムの居所を言わなかったからといっていじけないでください」

 シュティーナはそこで気付いた。イングヴァル王子と対面したときに感じた不思議な感覚は、これだったのだ。兄弟なのだもの。

(似ているのね。ふたり……青空色の瞳と髪の毛)

 顔立ちはサネムのほうが優しい。しかし、やはり兄弟なのだ。並ぶとよくわかる。
 ぼーっと見上げてしまうシュティーナ。そして、おろおろと声をかける父。

「あ、あの。陛下、これはどういう……イングヴァル殿下? サネム、殿下……」

(サネム、殿下……ですって)

 うしろを振り向くとイエーオリがいた。少し笑って首を傾げた。

(イエーオリ、なにかを知っていたのね)

 イエーオリにはあとで問い詰めてやることにして、いまはこの状況をなんとか把握しようと必死になるシュティーナだった。

「父上」

 サネムはカールフェルト王に向き直った。

「今日のこの料理は、俺が用意しました」

「……なんと。お前が?」

「スーザントで料理人として、勉強していました」

 テーブルに並べられた料理は『白銀亭』の季節のおすすめばかりだろう。そして、シュティーナとサネムの思い出も詰まっていた。

「王家に生まれたものとして、俺なりに色々学んできた。そして、戦いの歴史、自分に流れている戦いの血が。嫌いになっていった。父上も兄上も戦うことばかり……」

「サネム……」

「は……母上が亡くなったのだって、戦のせいだ」

 サネムの悲しみに歪められた表情に、シュティーナの胸は締め付けられた。たしかに、彼は母親を亡くしたと言っていた。王妃も、そうなのだ。そこも繋がっていく。

「そうだな。王妃が亡くなったのは、わしに会いに遠征地へ向かう途中だった。壊れた建物が崩れ、馬車に」

 そこでカールフェルト王が言葉を切った。喉を詰まらせたように唾を飲み込んでいる。