彼はシュティーナの柔らかく波打つ金色の髪に指を入れて、ふうと呼吸をした。

「男を目の前にして、夜空の色だなんて」

 シュティーナは、サムが次ぎにどうしてくるのか分からず、ゆらゆらと視線を惑わせてしまった。

「誘ってる。口づけて欲しいって、目が言ってる」

 動けなかった。いまシュティーナは鼓動も呼吸もサムと同化していて、目眩がする。

「きみの、その若葉色の瞳が言っている」

「言ってな……」

 唇は塞がれ、言葉にならない。ぐっと腰を引かれてサムの胸にすっぽりと抱かれてしまう。

「我慢、できなくなる」

 耳に押しつけられた彼の口から噛み殺したような声が漏れた。その苦しみが、なぜか嬉しくてシュティーナは自分でも驚くほど高揚した呼吸を漏らした。
 サムはシュティーナを膝の上に抱き上げた。サムの手がシュティーナの胸元に入っていき、肩からドレスを外してしまった。

「あ……あのっ」

 男女がこうなることがどういうことなのか、シュティーナも知らないわけではなかった。いけないと分かっていた。でも、求めてしまう。触れてほしいと思ってしまう。イングヴァルに嫁げば、こうしてサムに会うことは叶わないのだから。
 サムの手が胸元に滑り込み、シュティーナの肉付きの良い乳房が姿を表す。頂に指を這わせられると体に電気が走った。

「んっ」

 自分の甘い声に驚きつつ、熱っぽい視線で見つめてくるサムから目を逸らした。

(恥ずかしすぎる。どうしよう、どうしよう)

 羞恥と嬉しさのあいだで心が震える。

「ちゃんと、見て。俺を」

 最後だと思うから。言葉にしなくてもサムの言いたいことが分かった。思いを重ねるということ、思い合うということがどういうことか、少し分かった気がしたシュティーナだった。

 指が体のあちこちを這う。このままサムに奪われてしまってもいいとさえ思うのだけれど、それがどういうことか、自分の立場がちらついてしまい、体が固くなる。太股の間に割り込んできた指をぎゅうと挟み込んでしまう。

「サム、あの」

「最後までは……しない。できない。一時の感情に流されて、俺の欲望をきみに埋めることは出来ない」

 サムはそう言うと、深く、口づけをした。ねっとりとした熱がシュティーナの歯を割り入ってきて、貪る。

「触れたい。いまはそれだけが望みだ」

 切ない息遣いが耳にかかる。それだけで体の奥底からふつふつと愛されたい欲望が迫り上がってくるのが分かった。怖かった。でも、これはサムが相手だから。きっとそうなのだ。

 触れたいという望みを叶えたくて、シュティーナは体の力を抜く。

「恥ずかしくなんかないんだ。俺は嬉しい」

「恥ずかし……」

「……きみは……俺のものになるはずだったのに」

 押し殺したようなサムの声は、快楽に押し流されていった。

「サム……わたし」

 羞恥でいっぱいだったけれど、それと同じくらい幸せで胸が温かい。押し殺したようなサムの声を、うっとりとシュティーナは聞いた。シュティーナは本気でこの時間が永遠に続けばいいと思っていた。