(本当に美味しい。幸せで胸一杯になる。美味しいものってひとを幸せな気持ちにさせるんだなぁ)
シュティーナがそう思いながら食べていると、サムが水を追加で注ぎに来てくれた。グラスが空になったタイミングを見ているのだろう。そして自らこのテーブルに来てくれる。昼食の時間からは大きくずれていたので店内は混雑してなかったけれど、厨房は忙しいだろうに、ありがたいとシュティーナは思った。
「最高に美味しいです。鶏のささみがこんなに美味しいと感じたことはないです」
「そう言っていただいて、光栄です」
慇懃に腰を折るサム。
イエーオリは料理を口に運びながら、しきりに窓の外を見ている。露店が気になる様子だ。
「イエーオリ、もし気になるのならお店を見てきたら? わたしはここにいるから」
「そ、それは」
「知らない話も聞けるんじゃない? お父様に報告できる話題も拾えるかもしれないし」
「……ですが、今日は仕事ではないのでシュティーナ様のお共に徹しようと思ったのですが」
「イエーオリの言いたいことは分かっています。単独行動はしないから」
イエーオリは頷きながら眼鏡を指で直し、立って水差しを持つサムを見上げた。
「シュティーナ様を、サム殿にお任せしても宜しいだろうか」
「この店にいる限りは安全だと思います。ご安心を」
サムはシュティーナに笑顔を向けて言う。
「しっかり、お守りしますので」
シュティーナは、呼吸を止めた。
(あ……また……)
シュティーナは、サムと出会ったときに抱いた思いを再び感じた。美味しいものを口にしたときと同じ。ドキドキして温かな思いが胸に広がる。
(どうしよう。あ、味がよく分からなくなってきちゃった)
「では、1時間ほどで戻りますので」
顔を赤くして俯くシュティーナに気づく様子も無く、イエーオリは駆け足で店を出て行った。
「よほど行きたかったのでしょうか」
ウキウキとした調子で行ってしまったイエーオリを見送り、サムがクスクスと笑っている。
「すみません……騒がしくて。わたしは、大人しくしていますので」
サムは「お待ちを」と言って立ち去り、すぐ戻ってきた。
「どうぞ」
差し出された紅茶からいい香りが立ちのぼる。
「ありがとうございます。いい香り……」
「これは外国から入ってきた茶葉なのです」
「素敵な香り。ほっとする感じがします」
「落ち着く効能がある茶葉だそうですよ。この祭り期間中だと、港にたくさん商船が入りますから、普段見ない品物も手に入れることができます。もちろん、国外のものも」
目を輝かせて話すサムを見て、シュティーナは思わず微笑んだ。
「と、これは女性相手にこんな話……つまらないですよね」
「いいえ」
サムに見つめられ、それを避けるようにシュティーナは、カップを持った。目を閉じて香りを嗅いだ。
うっとりと目を開けると、正面にサムが座っていた。
「本当に、愛らしい方ですね」
「あ、え。あの……ありがとうございます……」
「焼き菓子もお持ちしますので。一緒にいいですか?」
「は、はい。でも、お仕事中なのでは」
「イエーオリ殿から、あなたを預かっているので。すこし休憩も兼ねます。ちょうど客も少なくなったところですし」
サムはテーブルに頬杖をついて、正面からシュティーナを見つめた。
(ど、どうしたらいいのかしら。男のひととこうしてお話しすること無かったし……ああ、イエーオリに対応方法をちゃんと聞いておくんだった……!)
先日も思ったことだったのに、慌ただしくてそれどころじゃなかった。シュティーナはため息をついた。
「あなたは、スヴォルベリ伯爵のご令嬢だったのですね」
サムの口から出た予想外の問いに、紅茶が喉に引っかかってしまった。
「うっごほごほっ」
「ああ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……そ、そうです。ご存知だったのですか?」
シュティーナがそう思いながら食べていると、サムが水を追加で注ぎに来てくれた。グラスが空になったタイミングを見ているのだろう。そして自らこのテーブルに来てくれる。昼食の時間からは大きくずれていたので店内は混雑してなかったけれど、厨房は忙しいだろうに、ありがたいとシュティーナは思った。
「最高に美味しいです。鶏のささみがこんなに美味しいと感じたことはないです」
「そう言っていただいて、光栄です」
慇懃に腰を折るサム。
イエーオリは料理を口に運びながら、しきりに窓の外を見ている。露店が気になる様子だ。
「イエーオリ、もし気になるのならお店を見てきたら? わたしはここにいるから」
「そ、それは」
「知らない話も聞けるんじゃない? お父様に報告できる話題も拾えるかもしれないし」
「……ですが、今日は仕事ではないのでシュティーナ様のお共に徹しようと思ったのですが」
「イエーオリの言いたいことは分かっています。単独行動はしないから」
イエーオリは頷きながら眼鏡を指で直し、立って水差しを持つサムを見上げた。
「シュティーナ様を、サム殿にお任せしても宜しいだろうか」
「この店にいる限りは安全だと思います。ご安心を」
サムはシュティーナに笑顔を向けて言う。
「しっかり、お守りしますので」
シュティーナは、呼吸を止めた。
(あ……また……)
シュティーナは、サムと出会ったときに抱いた思いを再び感じた。美味しいものを口にしたときと同じ。ドキドキして温かな思いが胸に広がる。
(どうしよう。あ、味がよく分からなくなってきちゃった)
「では、1時間ほどで戻りますので」
顔を赤くして俯くシュティーナに気づく様子も無く、イエーオリは駆け足で店を出て行った。
「よほど行きたかったのでしょうか」
ウキウキとした調子で行ってしまったイエーオリを見送り、サムがクスクスと笑っている。
「すみません……騒がしくて。わたしは、大人しくしていますので」
サムは「お待ちを」と言って立ち去り、すぐ戻ってきた。
「どうぞ」
差し出された紅茶からいい香りが立ちのぼる。
「ありがとうございます。いい香り……」
「これは外国から入ってきた茶葉なのです」
「素敵な香り。ほっとする感じがします」
「落ち着く効能がある茶葉だそうですよ。この祭り期間中だと、港にたくさん商船が入りますから、普段見ない品物も手に入れることができます。もちろん、国外のものも」
目を輝かせて話すサムを見て、シュティーナは思わず微笑んだ。
「と、これは女性相手にこんな話……つまらないですよね」
「いいえ」
サムに見つめられ、それを避けるようにシュティーナは、カップを持った。目を閉じて香りを嗅いだ。
うっとりと目を開けると、正面にサムが座っていた。
「本当に、愛らしい方ですね」
「あ、え。あの……ありがとうございます……」
「焼き菓子もお持ちしますので。一緒にいいですか?」
「は、はい。でも、お仕事中なのでは」
「イエーオリ殿から、あなたを預かっているので。すこし休憩も兼ねます。ちょうど客も少なくなったところですし」
サムはテーブルに頬杖をついて、正面からシュティーナを見つめた。
(ど、どうしたらいいのかしら。男のひととこうしてお話しすること無かったし……ああ、イエーオリに対応方法をちゃんと聞いておくんだった……!)
先日も思ったことだったのに、慌ただしくてそれどころじゃなかった。シュティーナはため息をついた。
「あなたは、スヴォルベリ伯爵のご令嬢だったのですね」
サムの口から出た予想外の問いに、紅茶が喉に引っかかってしまった。
「うっごほごほっ」
「ああ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……そ、そうです。ご存知だったのですか?」