視界に映るのは雪の白、翼の黒いコート、風に靡く自分の赤いマフラー。



「本当にみんなで来ちゃったね」

「うん。俺、初めて来たけどさすがに寒いね。…北海道は」



冬休み前から計画していた千夏と真弓の里帰り。


それについてきた翼と隼人。




「隼人、寒い?」

「寒いに決まってんだろ!俺は湘南育ちの夏人間だぞ!!」

「湘南育ちの夏人間って何よ。仕方ないなぁ、私のマフラーも貸してあげるよ」



真弓はガタガタと唇を震わす隼人に自分がしていたマフラーを巻き付けた。



隼人と真弓は隼人の浮気で喧嘩をしていたのが嘘かのように、元に戻っていた。




「…真弓と隼人さん、仲直りしてくれたのは嬉しいけど、前以上にイチャイチャするようになったよね」


「そうだね。喧嘩してた方が静かでよかったかも」



真弓は一度の過ちは許す事にしたのだった。


翼と千夏は苦笑いをすると、千夏の実家へと向かった。




東京の雪に比べて、綺麗で柔らかい北海道の雪。



「翼と隼人さんは近くのホテルに泊まるんだよね?」


「うん。ホテルって言ってもビジネスホテルだけど。まさかちーの実家には泊まれないからね」


「別に泊まってもいいのに。ウチの親、恋愛に厳しくないよ?」



千夏が翼の顔を見上げると、翼は微笑みながら首を振った。




「…泊まらせてもらうのは結婚報告に行く時でいいよ」

「え?何?」

「何でもないよ」



翼はそう言うと何処かに走っていってしまった。


千夏が首を傾げていると、サクサクと足音を立てて翼が戻ってきた。



翼は千夏の手を握り、いつものようにポケットの中に入れる。




ポケットの中に入った凍てついて感覚がなくなっていた手は、じんわりとあたたかくなってくる。



「…ココア買ってきたの?」

「そ。自販機が見えたからね」



翼の優しさが寒さを吹き飛ばしてくれる気がした。