さまよう爪

「そんで?」

「それで……直人にとってわたしって何だったんだろう? って、わたしにとって直人って何だったんだろう? って。彼氏いる自分に安心して、一方的に彼に尽くす自分に酔っていただけで彼と向き合ってなかったなぁ。でも、結婚するのに付き合った期間は関係無くて」

「うん」

「……もう頭の中がごちゃごちゃして、」

例えるなら、生温い温度の黒い刺繍糸がぐしゃぐしゃにからまって塊になってるみたいな感じ。

「ワケわからなくて」と言ったとき、ポタッと涙が零れた。

自分で驚いて、目を見開く。

うわぁ、すごい。これが『自覚がないのに涙が零れる』って奴なのね、とか見当違いなことを考えた。

ああ、ショックだったんだな、わたし。

誰かに話を聞いてもらいたかった。

今更のようにじわじわと、そんな感想が胸の内に漏れる。

一度堰が壊れた涙は、目の前で困惑している男なんか関係なしにボロボロと溢れていった。

バッグからポケットティッシュを取り出して、一枚、顔の真ん中に当てて、化粧が剥げるのも構わず、ずるずると鼻をかむ。わたしの手ももう、涙でびしょぬれだ。