さまよう爪

「大丈夫? 頭、痛むの?」

心配そうに問いかけてくる彼に、わたしは黙って首を振るしかできない。本当は、泣きたい気分だった。

こんな夜は彼の温かな手に、すがりついてしまいたかった。

だけどそれは許されない、その気持ちをやっとのことで抑え込んだ。

「……まだ、飲みたいです……」

「じゃあ、最後に一杯ってことで」

そう言って立ち上がるとドリンクカウンターへ歩いていく男の後ろ姿を眺める。

「お待たせ。『あの人の同じもの』って頼んだらモヒートが出てきましたが、合ってる?」

「合ってる。……じゃあ、最後の一杯」

「うん」

わたしにモヒートのグラスを差し出した彼は、もうひとつ自分用のグラスをテーブルに置いて、元の場所に腰を下ろした。

「これ飲んだら帰らなきゃダメか……」

「飲み過ぎ注意報。明日仕事なんでしょーから、ほどほどってことで」

その言葉を聞いて、ちょっと笑った。

変わってる、この男。

クラブでナンパしようってんだから、女が酔い潰れちゃうほうがラッキーなんじゃないのかなあ? 普通。

なのにわたしの明日の仕事を心配しているあたり、妙に手緩くて、おかしい。

くすくす笑うわたしに、男が軽く片眉を上げた。グラスに口をつけてから、首を傾げる。

「ん、なに?」

「なんでも」

「えーなになになに」

「ちょっと飲めないって」