さまよう爪

「ああ、これどうぞ」

彼はこちらを向いて言った。

あれ? と思って顔をあげるわたし。

向こうもそう。あれ? という顔でわたしを見下ろしていた。

呆然と見つめあっていた時間はごくわずか。

沈黙は向こうによって破られた。

「熱は……下がったみたいだね」

ちょっと目尻の下がり気味なのが、人の良さそうな印象で、はにかむように笑うからますます目尻が下がるので、より一層柔らかで優しげな印象になった男性は、数日前にわたしを救護してくれた彼だった。

「あ、はい。おかげさまで……」

偶然すぎて反応が少し遅れてしまった。

それから、また別の形で醜態を見られたことに恥ずかしくなる。

テーブルを挟んで向かいに、さっきとは別の男が座っていた。

「余計なお世話かもしれないけどさ、病み上がりでこんなところ来るのはあまりよくないと思うよ」

「……」

「まぁ別に変なモン入ってないから、とりあえず少し水飲んどけば? その水、あなたの為にもらってきたんで、遠慮なくどーぞ。それでもまだ飲みたければ、俺がもらってきてあげるから」

優しい言いかたに、自然と水のグラスに手を伸ばす。

確かに立て続けに何杯も飲んでるから、この辺で一度休憩すべきはすべきかもしれない。

本当に今しがた入れてもらったばかりらしく、水はひんやりと喉に染み込んだ。