さまよう爪



 ***

むしゃくしゃする。

酔った視界に、今朝の会社での出来事と、後輩の姿がちらつくわたしはモヒートのグラスを空にした。

『小野田さん、何日も休んで心配しましたぁ。大丈夫ですかぁ?』

そう言ってちょこんと袖を引っ張る彼女。ちょこんと袖を引っ張るなんて計算しないとできないつーの。

何杯目だっけ……

これ。

視界が、揺れた。ダンスフロアから鳴り響いてくるはずの大音量も、どこか遠い。

「ねぇねぇ、ひとり?」

またナンパ……

ちょっとうんざりした気分で、わたしはテーブルから体を起こした。

クラブにいる男ってのは、女と見れば声をかけなきゃなんないってルールでもあるんだろうか。

しかも男は、

「この辺にめっちゃ可愛い子がいるって聞いて探してたんだけど、絶対お姉さんのことだよね! やっと見つけた! 背ぇ高いね、菜々緒っぽい。菜々緒感出てるよ」

なんて、めちゃくちゃ大袈裟な褒めるものだからさすがに笑ってしまった。鼻で。

いるいる、こういう女を引っかけることに命かけてるみたいなの。

なまじっか、ちょっと顔が良かったりすると、女も馬鹿だから引っかかんの。

「ひとりじゃないよー」

「え? 嘘だあ。さっきから見てたけど、ずっとひとりで飲んでるじゃない」

軽そうな男。

人懐こいのと慣れ慣れしいのを、勘違いしてんじゃないの?

男は、わたしの隣の椅子を引くと、こっち向きに座ってテーブルに頬杖をついた。