貴重な一日が終わった。



楠見の引退まであと残り一日一。




伝統部の雰囲気はいつもと何一つ変わらず、明日メンバーの1人がいなくなってしまうなんて、考えられないような状態だ。


澪和はと言うと、楠見の引退が気になり部室に来てからずっとそわそわしている。



「澪和ちゃん、どうしたの?今日、体調悪い?」



落ち着きがない澪和を見て、佐々木が訊ねてきた。



「い、いえ、そういう訳じゃ…」



まさか、楠見の引退が気になるだなんて、楠見本人がいる前で言えるわけがない。

楠見はその事に気付いたのか、チラリと澪和の方を見て、すぐに目をそらした。



「……」



どことなく寂しい。

明日になったら、楠見とは会えない。




こんなにも毎日顔を合わせていたのに…




「……おい」



落ち込む澪和に低い声が振りかかる。