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「琴昭儀様が参られました。」
女官の言葉に黄麟殿の主はすぐに答え、私は足を踏み出し室に入り、執務机に座す陛下に頭を下げる。
「冥紗。」
立ち上がり傍まで来られると、優しく微笑まれた。
陛下の手が頬を撫ぜ、腰を引かれる。
「顔色が少し悪い。昨夜のことを気に病んでいるのか?」
『気に病まないではいられません。私のせいで、軍妃を多く失ったのです。ですが、私は軍妃将軍です。いつまでも病んでいるつもりはありません。』
陛下の胸に手をあて軽く押し返すと、腰にあてられていた陛下の手が離れる。
悲しそうな表情に、胸が痛む。
思わず顔を背ける。
昨夜のことを思うと、とても陛下の腕の中にいることなどできるはずもなく苦しくなる。
死んでいった軍妃たちは、こうして陛下の腕に抱かれることも、お顔さえ見ることなく死んでいったのだ。
そう、拝顔さえ出来ぬまま…
軍妃は警護の際か、寝所に呼ばれることがない限り、陛下にお会いすることもままならない。
ただ囁かれる陛下の噂を聞いてはどのような方なのか想像し、いつか見初められる事を夢に見ただろう。
その儚い夢であっても、軍妃達の拠り所であり希望であった。
しかし、拝顔したこともない、想像でしか知らない陛下のために、命を差し出すことは出来ぬほどにその希望は命と引き換えにするには、とても儚く脆い。

