四面楚歌-悲運の妃-



「貴女様は死というものが怖くはないのですか?」


問いの意味が一瞬分からなかった。


そんな事を問われる意味がないからだ。


『死が怖いなど軍妃といえません。』


怖いなどと思った事がない。


護るという事に死の恐怖など必要のないもの。


私の答えに不服だったのか、范丞相は顔を歪めた。



天子である皇帝の身を護り、命を捨てる事が私の役目だ。


私が聖人であるからではなく、軍妃となったその日からそうこの身に刻んだ事。

「怖くないなど口先だけなら、武人は皆申すこと。
しかし貴女様は本当にそう思っていると、その目を見れば私でもわかる。」


それなれば何故、私にそんな問いを?


ますます范丞相の問いの意図が分からない。



「死を怖れぬ事が真実の忠義だと?」


!?


何を言って…ッ




怖れれば剣をまともに振れぬではないか!


怖れれば、護れぬではないか!



「死を怖れる事は悪い事ではない。
怖れてなを、人は強くなるのです。
貴女様もいずれ死を怖れる事になる。
その時、怖れに負ける事のないように。」



怖れに負ける?


私には理解出来ない。



「まあ、今のままの貴女様でも、私どもとしては、なんの支障もありませんがね。
では、これで失礼致します。」


返す言葉が浮かんでこなかった。


ただ、范丞相が室を出ていくのを、呆然と眺めた。