四面楚歌-悲運の妃-



静寂の空気が全身を硬直させる。

視線が痛い程に突き刺さる。


何か言わなければいけないのに、言葉が喉に張り付いて、声にならない。



どれくらいそうしていただろうか?


短かったのか長かったのか分からない。



今まで動かず私を見つめていた范丞相が、慌てた様私に駆け寄る。


私の目の前に立ち、指を頬へと伸ばす。


けれどその指は、私に触れる寸前に止められた。



「…ッなぜ…涙を…」



え…?


なみ…だ?



まだ震える手を、頬にやると指先が濡れた。



私…泣いて…



仮面の隙間から滴りおちる涙は、止まる事なく頬を伝う。



「…貴女様にとって、自らの正体を明かす事は、そんなにも悲しい事なのですか?」



さき程までに見せていた顔とは反対に、悲しく顔を歪ませて私に問う。



悲しい…。



そう、悲しいのだ。


此処に居れなくなることが



陛下のお傍にいれなくなる事が



聖人としてだけ生きる事が



女人として生きれない事が



悲しいのだ。