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「琴昭儀様。范丞相がお待ちです。お迎えにまいりました。」
夕刻、宦官が私を迎えに来た。
宦官に連れられ、范丞相の待つ場所に向かう。
扉の前に立ち、気づく。
こ、ここは…
黄麟殿…!
なぜ、陛下のおわす黄麟殿に?
「中にてお待ちです。御一人で入ってこられる様にと、言われております。どうぞ中へ。」
宦官に促され、黄麟殿の扉を開ける。
ここに入るのは2度目だ。
警護のたびに訪れてはいるが、中には入ったのは1度きり。
その1度目は初めて警護をした時…
あの時の事が頭をかすめる。
陛下に抱きしめられた…あの時だ。
ゆっくりと足をすすめると、范丞相の姿が見えた。
「お待ちしておりました。琴昭儀様。さぁ、こちらへ。」
范丞相に連れられ、さらに奥へと入ると
『…陛下…。』
思わず言葉に出し、立ち止まった。
私の声を聞くと、視線を私に向ける。
慌てて頭を下げる。
陛下は子から立つと、ゆっくりと私の所まで来た。
「冥紗…こうしてそなたに会うのは、久しいな。」
私は答える様に微笑み返す。

