「そうなのね。……まあ、でも〝あんなこと〟があったしね」

私の胸がざわざわと騒ぐ。


「私も同い年くらいの子どもがいるから当時は重ねちゃってツラかったわ。小枝ちゃんだけでも無事で良かったわよね。だってそうじゃなかったら今頃尚子さん……」

「すいません。まだやることがあるのでこれで失礼します」

私は形だけのお辞儀をして、押してきたリアカーの方向を変える。


「小枝ちゃんも苦労してると思うけど頑張ってね。これでもご近所なんだし、小枝ちゃんもこっちにいる間は色々と頼ってくれていいからね」


私の心が腐っているのか、それとも性格がねじ曲がっているせいなのか。女性の顔が笑顔なのに全く笑っているように見えなくて、なんともいえない気持ち悪さが喉まで上がってきた。


……頼ってくれていいから?

あのとき誰も助けてくれなかったくせに?

あの家はちょっと変わってるのよって一線を引いて、噂話だけをするだけして、あとは踏み込んでこなかったくせに。


やっぱりこの場所も嫌いだ。

狭い町は生きづらくて息苦しくて。だから東京に行って新たな生活を始めるはずだったのに、あそこは広すぎてうわべだけの人間関係はどこへ行っても同じ。

時間が経っても変われなかったのは私だけじゃない。


だとしたら、私の居場所はどこにあるんだろう。

どこに行けばこの気持ちから解放されるの?