無意味な死が増え、新たな麒麟が生まれるための仁愛が薄れた。

 麒麟はそのような国など要らない。守護したこところで、なんの意味を成さない。決して誕生の声は上げないだろう。

 神託を授かったホウレイは国の滅亡を予想する。このままでは、麒麟の消滅と共に麟ノ国も消える。

 神官として、クンル王に申し出た。
 どうか、仁愛溢れる国に尽力を注いでほしい、と。

 一見、助言として受け取られた、それは流された。状況は何も変わらず、いや、それどころか国は今以上に荒み、時だけが経った。

「十八年前、麒麟から神託は途絶えました。同時期、王族を揺るがす出来事が起こります。ピンインさまの御誕生です」

 それはほぼ同時期であった。
 麒麟の加護を受けられず、国に不幸ばかり呼ぶ第三王子に、ホウレイは瑞獣と何か深い関わりがあるのではないかと思い始める。

「二年前、ホウレイさまは久方ぶりに神託を受けました。麒麟は告げたそうです。十八の節目に瑞兆と凶兆が生まれるであろう、と」

 まぎれもなく第三王子の歳の数と一致した。
 ホウレイはやはり、瑞獣と第三王子は深い関係があるのだと思い、クンル王に知らせた。それを聞いた王は命じた。十八となる日に第三王子を討てと。

 関わりがあるだけと言っただけなのに、クンル王は瑞兆と凶兆に過剰反応した。とりわけ後者を懸念し、我が子の亡き者にするよう強く命じた。

 ホウレイが止めると、謀反を疑われ、牢で笞刑(ちけい)となった。一方で、王子は簒奪(さんだつ)の罪を着せられ、無情にも葬られる。

 クンル王は先代に続き、驕傲(きょうごう)が目立つ愚王であった。

 以前より不信感を抱いていたホウレイは王宮を去り、同志を募って新たな麒麟の誕生を模索する。王族が滅びようとも、国を亡ぼすわけにはいかなかった。

「ホウレイさまには星読の力がございます。それにより、貴方様の生存を確信したのです」

 一年の月日を費やし、ついに天士は居所を突き止めた。
 だが、それはクンル王の耳にも入り、第三王子ピンインの生存を知ってしまう。なんとしても、クンル王の兵が捕らえる前に保護しなければならない。

 天士ホウレイとクンル王の攻防戦が始まった。

「ホウレイさまの動きは既に知られており、謀反人の烙印を押されております。それは我々も同じこと。罪は承知の上で、謀反の準備は整えております」

 残る問題はピンイン王子だとカグム。
 瑞獣と深い関わりがある王子を、天士ホウレイの下へ連れて行くことができれば、すべての準備は整う。


「麟ノ国第三王子ピンインさま。天士ホウレイさまは、貴方様を次なる国王とし、仁愛溢れた国を目指したいとお考えなのです。瑞獣と深い関わりがある、貴方様ならば新たな麒麟を誕生させることができるのではないか、と」


 長ったらしい語りに耳を傾けていたティエンは、片眉をつり上げ、薄い反応を見せる。その顔は不快感で溢れていた。

 それもそうだろう。
 今まで陰口を叩かれ、罵声を浴びせられ、死を望まれていたのに、手の平を返したように、必要とされる。目の前には己にとどめを刺した近衛兵。
 あまりにも都合が良過ぎる。

 辛抱強いユンジェとて、嫌味の一つでも吐きたくなる。

「何を目論んでいるかと思えば、吐き気のする話だな」

 ティエンの口調が荒くなった。
 王子ピンインとして悪態をついているのだろう。どうしても、我慢がならないのだろう。一年間、溜まりに溜まった怒りと鬱憤をぶつける。

「クンル王に不満があるのなら、王位継承権を持つ第一王子、第二王子の兄達に相談すればどうだ。私は王族を追われた身。王座とは無縁だ」

 瑞獣と深い関わりがある、などと憶測で物申されても迷惑だとティエン。
 新たな麒麟を誕生させるかもしれない、そんな薄望みを寄せられたところで、自分には何もできない。今まで麒麟の加護を与えられなかったのだから。

 タオシュンの一件で、ようやく麒麟から加護を与えられ、他の王族と同じ位置に立つことができた。