…その日は、眠れなかった。
頭痛や眩暈、吐き気のせいっていうのも確かにあるけれど…。
『リンネは、僕の獲物だ』
「……………」
彼の言葉を反芻しては、体が重くなる。
ヨハン、やはりあなた……。
「ゴホッ…ゴホゴホッ」
激しく咳き込んだ弾みに、ボロリと涙が零れる。
焼けつくように喉が痛い。
「お嬢様?暁です。医者をお連れしましたので……
「いらないわ。丁重にお帰ししなさい」
「ですが……」
「暁、私に二度同じことを言わせるつもりなのかしら」
「……………申し訳ございません」
暁は知らない。
私はもう、明日には………
引き出しを開けて、花かんむりに指先を這わせる。
…この家から私がいなくなれば、当主は誰になるのかしら。
父様も母様もいないし、暁達だって、今後どうすればいいのかしら。
「……………やめた」
再びゴロリとベッドに仰向けになる。
ふわりと目を閉じて、横たわる。
…もうすぐ、15時の鐘がなる。
夜にはヨハンが来るから、それまでに体力だけでもどうにかしなくちゃ。
そう思って、目を閉じる。
最後くらいは、笑顔でいたいから。



