おでましだ。地獄よりの使者、伊達磨理子。


  ——ズザザザザザザザザッ。


またの名を、呪いの化身。


——ザザザザザザザザッ。


電灯が作り出した影の中から、のそりのそりとカノジョは現れた。


         ——ズズッ。


肘から上を地面に突っ立て、


 ——ズザザザッ。


胴体を這わせる。もう一つの腕で、


——ズッ。

      ——ザザザザザザザザッ。


同じように。

薄汚れた白装束の先端に見える肩が激しく動き、


  ——ズザザザザザザザザッ。


前進を繰り返す。

「も゛うィャ……」

限界を迎えた彩矢香は、その場に座りこむ。

「鏡を゛! 早くッ!」

彼女の長い髪が小刻みに震えていた。

もう、これ以上のシチュエーションは無い。

呪われし禁断のゲームを始めた理由が、まさしくここにあった。

誰もが知る心理学、その究極形。

【吊り橋効果】

元々愛し合っているふたりならどうなるか……?

さらにこの手を強く握るように、彩矢香は僕から離れられなくなる。

そうだ、もっと震えろ。

伊達磨理子が這い寄るほどに、僕らの永遠が近づくのだ。


——ズズッ。


    ——ズザザザザザザザザッ。


「っ、ぅう゛……」

「しっかりしろ゛ッ!」

彼女とカノジョの距離は5メートル。

十分だ。十分、この僕の存在感を思い知ったことだろう。

彩矢香が死んでは元も子もない。

「お゛い!」

顔を覗きこんだ僕は驚愕する。






「ぇ゛⁉」






彼女は、恐くて震えていたんじゃなかった。






「彩矢……香?」








笑いをこらえていたんだ。





「フンフフフッ……ハハハッハハッ」