AM 3:01

分泌されるアドレナリンが、頸動脈を激しく揺らしていた。

「大丈夫?」

木の幹に額をつけてもたれかかる彩矢香。

立っているのがやっとの様子。

「大丈夫じゃないよ……私、死ぬのかな……」

あまりに弱々しくて、吐いた息が白くもならない。

「ほら、手!」

AM 3:02

不安を取り除くには、小指だけじゃ役不足。

彩矢香は僕の差しだした手をグッと握る。

「見ないほうが怖くない?」

「……ぅ、ぅん」

ふたり、広大な砂の地面に背を向けた。

迫り来る恐怖で足がすくんでしまわないように。

慣れない仕草で時計を見る。

下っていた秒針が上りはじめ、興奮のボルテージと同化した。

いよいよ……。

「3時3分」

スタートを切った。“カノジョ”の時間だ。

呪文は要らない。伊達磨理子は絶対に現れる。

——ズンッ。
「ぅ゛⁈」

突如、身体が重くなった。

まるで地面から生えた無数の手が、僕を引きずり下ろそうとするように。

「くッ……る゛っ」

彩矢香は目を閉じ、僕は耳を澄ます。

「来い……」

逃げも隠れもしないさ。

この計画のフィナーレを飾るにふさわしい恐怖を与えてくれたまえ。








    ——ザザザザザザッ。