泣き疲れて、床にぐったりと倒れる彩矢香を外の椅子まで運んだ。
声がかすれていたから、今度は自発的に自動販売機へと走る。
遠くに見える病院の入口には、すでに大勢の記者や報道のカメラが待ち構えていた。
「ヤベぇな……」
この状況、あまりにも突然すぎる。
もしや、復讐の騎士団が関わっているのか。
だとしたら、彩矢香に対して異常な執着だ。
聖矢の誘拐に、父親の不慮の…。
「いやいや!」
今、危うく“死”をつけるところだった。
「これ、ほら。ハチミツは喉にいいから」
「……ぁありがとぅ」
それに、彼女はレモンティーが好きだ。
ペットボトルのフタを開けると、甘い香りが漂った。
残念ながら、僕らふたりだけのそういう時間は、一時休止になるだろう。
「なぁ、彩矢香。今日は母親とずっとここに居たら?」
「ぇ。でも……」
康文なんて、天秤にかけるほどではない。
「僕が今夜、彩矢香の家を守るよ。もちろん、聖矢も康文もね」
「……ホント?」
「あぁ。たまには頼ってくれ」
「たっちゃん……あり゛がとう」
「いいんだ」
「でも……」
「でも?」
「頼りないなんて、一度も思ったことないよ」
「彩矢香……」
ロマンスは意外なところに転がっているもの。
人目もはばからず抱きしめ合う僕たちに、一足早く訪れた聖なる夜の甘いメロディーが流れていた。
恋愛小説じみているが、早とちりはよろしくない。
僕はただ、院内に流れる有線のチャンネルのことを言っている。



