ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】




もう一度ドアが開くことはなかった。母親の言う病院に着くまで。

「なんで……」

ただの検査入院のはずが、容態が急変し、危篤状態らしい。

「なんでよ……」

彩矢香は運転しながら、この言葉を何度も口走る。

ドラマさながら、受付でICUの場所を尋ね、一心不乱で廊下を駆け抜けた。

「お父様!」

家族のみの面会なんて知ったこっちゃない。最近の僕は、それ同然だ。

「お父様!!」

反応がなかった。

鼻と口を覆う呼吸器や、身体に取り付けられた様々な医療器具。

素人目にも、危険な状態だというのがわかる。

「先生がね゛、今夜がヤマだろうって゛。ンン゛、なんでこんなことに……」

「お母様……」

涙でベッドを挟む母娘。僕は聖矢を捜して周囲を見回した。

母親はそれに気づき、

「あの子は、先生とグスッこの゛人の運転手さんが付いてるから大丈夫よ」

「そ、そうですか……」

これで心置きなく、哀しみに暮れるフリができた。

患者は、出馬すれば当選確実の天才実業家。次期総裁候補とまで云われる超大物。

たくさんの患者を抱えるはずの主治医は、このICUに付きっきりだった。

「手は尽くしましたが、原因が未だに不明でどうしようもありません」

「そんな! なんとかしてください゛ッ! お父様を……お父様を助けて……」

一番そうしたいのは彼だろう。恩を売れば、即独立して開業も夢じゃないのだから。