もう一度ドアが開くことはなかった。母親の言う病院に着くまで。
「なんで……」
ただの検査入院のはずが、容態が急変し、危篤状態らしい。
「なんでよ……」
彩矢香は運転しながら、この言葉を何度も口走る。
ドラマさながら、受付でICUの場所を尋ね、一心不乱で廊下を駆け抜けた。
「お父様!」
家族のみの面会なんて知ったこっちゃない。最近の僕は、それ同然だ。
「お父様!!」
反応がなかった。
鼻と口を覆う呼吸器や、身体に取り付けられた様々な医療器具。
素人目にも、危険な状態だというのがわかる。
「先生がね゛、今夜がヤマだろうって゛。ンン゛、なんでこんなことに……」
「お母様……」
涙でベッドを挟む母娘。僕は聖矢を捜して周囲を見回した。
母親はそれに気づき、
「あの子は、先生とグスッこの゛人の運転手さんが付いてるから大丈夫よ」
「そ、そうですか……」
これで心置きなく、哀しみに暮れるフリができた。
患者は、出馬すれば当選確実の天才実業家。次期総裁候補とまで云われる超大物。
たくさんの患者を抱えるはずの主治医は、このICUに付きっきりだった。
「手は尽くしましたが、原因が未だに不明でどうしようもありません」
「そんな! なんとかしてください゛ッ! お父様を……お父様を助けて……」
一番そうしたいのは彼だろう。恩を売れば、即独立して開業も夢じゃないのだから。



