舌打ちが止まらない。どうして僕がパシリみたいなことを。
それもこれも全部、康文が意固地なせいだ。
「意固地って……ちょっとかわいいな」
ひとりつぶやき笑っていると、一生ミスキャンパスにはなれない女たちに冷たい目で見られる。
やっぱり、アイツのせいだ。
「こうしてやるッ!」
ひとつだけ冷たい飲み物を買って戻ると、僕は全部を地面にぶちまけた。
「うそ……」
康文が膝をついて泣き、それを彩矢香が抱きしめて慰める。彼と同じように涙を流して。
「…………」
他の男を抱きしめる姿なんて、もう二度と見たくない光景だったのに……。
説得が上手くいったようだが、ほとほと解せない。
ああいう風に泣くのは、あんなにきつく抱きしめるのは、他人ならば愛する人にのみでいいはず。
そう、この僕にだけで。
「どうした?」
「……たっち゛ゃん。ヤスがわかってくれたの! 今夜、終わらせてくれ゛るって」
「あぁ、そう」
感動的な一場面だが、写真に撮る気はさらさら無い。
所詮はコイツも恐れをなしただけ。
本当は死にたくなくて、これまで膝を震わせていたんだ。
だから、いま立っていられないのだろう。
「で、どうする? 彩矢香の家に集まるか」
今夜は早く帰る。彼女が母親とこの約束をしていたのを忘れていなかった。
「そ、そうだね! うちに来て。いい?」
「……う゛ん、わかったよ」
午後の講義のため、康文は校舎に入っていった。
これでやっと、僕らのランチタイムだ。
時間も時間。駐車場が空いている店はなかなかなくて、3軒目でやっと車を停められた。
「ちょっと待って。お母様から電話だ」
ドアを開けた直後、携帯を手に取る彩矢香。
吹きつける風が冷たすぎて、互いにドアを閉めた。
『もし…』
『大変よ! 今すぐお父様の病院に来てっ!』



