浜田はまったく余計なことをしてくれたものだ。
これ以上に気まずいエレベーターの中があるだろうか。
沈黙の均衡を開いたのは、玄の父親だった。
「君らは息子とどこで?」
「ぁ、中学です」
「開桜か」
「はい」
「私は卒業式の日しか顔を出さなかったな。あそこに入学するのは当然だと思っていたから」
この人、うちの親父と同じ匂いがする。鼻ではない嗅覚がそう感じた。
「さ、さ。こちらです」
この先に芸者でも待っているのかというような誘導の後、ある扉の前で止まる。
「キミらは一旦ここで待ってて」
「だから、構わんと言ったろ」
「いや、でも……」
最期の対面になるというのに、ネクタイを締め直すわけでも、ハンカチを用意することもなく、父親自身がドアを開けた。
中央だけが照らされ、周囲は灯台の真下のように暗い。
白いシーツと覆い。顔を隠す布。
「…………」
これが安置室か。ゾクゾクする。
父親は早々に、右手の指先だけで布をめくった。
「うむ。息子で間違いない。通夜なんかの段取りは妻に任せてあるから、連絡が来るまでよろしく頼むな」
「承知致しました」
「え……」
ものの10秒。捜査員たちに話をした時間より格段に短い対面だった。
浜田と斎藤は唖然とし、見送りも忘れてしまう。
「よっぽど忙しいのかな……」
「俺たちがいる手前、毅然と振る舞うしかなかったんだろう」
ふたりはそれなりにフォローを入れているが、僕にはどれも響かなかった。
単に、冷たい人間なだけ。今の息子といい勝負。
やはり、あの人は親父に似ている。



