まず山口が声をかけたのは彩矢香だった。
「サヤ! マジで恩に着るよ!」
「ううん、いいの。友達でしょ?」
そう言って、スッと鍵を差しだす。
「あと、これが住所。で、これが住宅街に入るためのIDね」
「IDが要るの⁉」
「そう。ハリウッドの俳優さんとか多いから」
「ヤベッ! マジすっげぇ! 金髪セレブとヤれるかな……」
興奮しながら低能で稚拙な言葉を並べる山口。
彼が助かれば、僕と彩矢香も助かるのか。
それとも、彼を飛び越えて順番が回ってくるのか。
もしもそうだとしたら、怨念の程度を疑ってしまう。
「あっちにどれくらいおるん?」
「大貫が捕まるまで。かなー」
「まだそんなこと言ってんのかよ!」
「……こわっ」
真相を追い求めた僕と彩矢香。ただ逃げるだけのこいつ。
僕らは傷ついているのに、山口は浮かれている。
その不公平さに声を荒らげた。
「僕も彩矢香もこの目で見てきた。大貫の弔われた姿を。あいつは死んでるんだよ!」
僕の言葉が胸を突いたのか、表情が曇った。
しかし、刺さったわけではないようだ。
「ぉ俺、そろそろだし行くわ!」
キャリーバックの柄を握り、小さなキャスターが回りだす。
「え⁉」
だが、すぐに止まった。止められた。
僕は彩矢香を庇うため、とっさに彼女の前に出る。
「なんや? 知り合いか?」
玄と山口は知る由もない。
「何? 誰?」
この3人組のことなど。
「指示に従ってもらうわよ」
男たちはそれとなく山口を羽交い絞めにし、女が他の客から死角の位置で銃を突きつける。



