「じゃれてただけや!」
なぜか玄は、何事もなかったように、僕を引っ張りあげる。
服についた芝生を払いのける気遣いまで。
「そやんな?」
彼女の前で恥をかきたくない僕と、その思いを汲む玄。
完膚なきままでの敗北だった。
「あぁ。なんでもないよ」
「……ほな、行こか!」
またも笑って見せ、玄は車に向かう。
このとき決めた。
彩矢香のいない時に必ず決着をつける。
そして、どんな手を使ってでも、彼女を取り戻す。
と……。
「行くって、どこに?」
久しぶりに違う装いの彩矢香に尋ねると、
「羽田。グッさんの見送り」
沈んだ表情のままで、そう言った。
玄は、すでに僕の特等席を陣取っている。
今は我慢だと、奥歯をギリつかせながら後部座席に乗りこんだ。
——……。
当然、会話が盛り上がるわけがない。
「最近の羽田はえらいことになってるんやろ? 楽しみやなー」
よくもこの雰囲気でそんなことが言える。
僕の奥歯と同じように、どこかで全身の神経を抜かれたのか。
こんなヤツが警察官になるなんて世も末。人類という党からすぐにでも排除すべきだ。
心に秘めた恨みつらみの約1時間。
一切の会話なく、僕らは空港に着いた。
フードコートのあるフロアに山口がいて、僕たち3人を見るなり大きく手を振る。
むろん、笑って振り返すのは玄だけ。
「おった、おった! グッさーん!」



