めった刺しにした。玄を。
それでも足りず、馬乗りになって殴った。
「着替えるやろ? 外で待っとくわ」
頭の中で。
無理矢理なら、本当にやっていたかもしれない。
でも、そうじゃなかった。合意の下でキスをしたのだ。
すれ違いざまにほくそ笑んだ玄が、部屋の外に出ていく。
僕は彩矢香の傍に寄ることができず、冷静を装って問いかける。
「今の、ホント?」
「…………」
「アイツと婚約したのか⁉」
「…………」
ダメだ。冷静でいられるわけがない。
「答えろよ!!」
ムリだった。愛する人に寄り添いたい。
「なぁ……僕の気持ち知ってるだろ? なのに、なんで……」
彩矢香の両腕を掴み、切実な思いをぶつけた。
すると彼女は、とんでもない真相を明かす。
「大貫さんがいじめられるようになった原因はね、実は私だったの」
「え⁉」
康文と大貫が幼なじみだと知った玄。
そのことを話したのは、当時の彩矢香にだけ。
軽い気持ちで皆に言いふらしてしまったことで、いじめの始まりを招いた。
その事実を武器に、アイツはこう言って脅したらしい。
「天下の宝泉グループの娘が、いじめの片棒を担いでいたなんて知ったら、マスコミが騒ぐはず。それとも今じゃなくて、父親の選挙活動中がいいか?って……」
「そんなの強引すぎるだろ!」
「でも、大貫さんが自殺してるから、食いつかないわけがないって」
「…………」
それはたしかに一理ある。
自殺やいじめや富豪と権力を目の敵にしているマスコミにとって、こういうネタは大好物。
事実を多少ねじ曲げてでも、世論を味方につけようとするだろう。



