「このことは誰にも言わないで」
車に戻った彩矢香は、伏し目がちにそう言った。
「わかってる。ふたりだけの秘密だ」
彼女の手を握り、墓場まで持っていくと誓う。
「たっ゛ちゃん……」
初めて、僕の胸に飛びこんできた。
父親の裏切り、大貫と自分が血を分けた姉妹という真実。
常に気丈な彩矢香でも、これは耐え難かったのだろう。
僕は黙って彼女の髪を撫でて、背中に手を添えた。
白昼堂々の愛情表現に、外を歩く人の視線は集中。
そんなことはお構いなしで、きつく抱きしめ合う。
この状態は、完全に“詰み”だ。
どれほど時間が流れただろうか。
「もぅ大丈夫……ありがとう」
僕の胸から離れ、ハンドルの前に居直った。
「帰ろっか」
「……なぁ、せっかくだから色々寄って行かない?」
もちろん、そんなことをしている場合じゃないのはわかっている。
呪いはまだ終わっていないし、僕らの周りの不穏な動きの正体も判明していない。
「帰りがけに熱海もあるしさ、それに……お腹へった」
「クスッ。そうね」
このまま帰ってしまえば、父親を軽蔑し、父子関係が悪化するかもしれない。
それだけはどうしても避けたかった。
かつ、これまでのキズを癒して、頭を刷新する時間が欲しい。
「行こっか!」
「イェーーイ!」
とにかくもう、重い空気が軽くなるように最善を尽くす。
キャラを棄ててハシャいでみたり、柄にもなくモノマネをしてみたり。
初めは、どうしたの?ばかりだった彩矢香も、少しずつ笑ってくれるようになった。
海の幸満載の美味しい丼を食べ、名湯で魂の抜けるような快感を得る。
心も身体もフラットになった状態で、大貫の母親が放ったあの言葉が脳裏に甦った。



