言葉が出ない。まさしく、“天才”に相応しい最期だ。
母親は、遺骨の下に置いていた白い封筒を、そっと僕に差しだす。
「これは?」
「遺書です。あの娘の」
「…………」
僕らに読む資格があるのだろうか。
いいや。本当は恐い。
この中に自分たちの名前があるような気がして躊躇う。
すると彩矢香は、僕の手から取り、読みはじめた。
それも、忖度することなく声に出して。
「生きるのに疲れました。生まれてきた事を悔やみました。だから死にます。お母さん、ごめんなさい。先逝く娘をどうかお許し下さい」
「ぅう゛っ、ぅ゛う゛……」
むせび泣く母親。
大量にある空のお酒は、こうしてすべてが涙へと濾過したのだろう。
「…………」
僕は迷っていた。
大貫が人生に悲観した一因が、自分たちにもあるかもしれないと正直に打ち明ければ、きっと母親の悲しみは半減するだろう。
だが、これも恐れる。
過去に傷がつけば未来まで響く世の中で、僕らはこれからも生きていかなければならない。
大貫には悪いが、保身のために封印するしかないのだ。
「彩矢香さん……やっぱりあなたは、サチの思いを代弁できる人ね」
「ん⁉」
突然、母親は妙なことを言いだす。
食いついたのはもちろん、僕よりも彼女だった。
「どういう意味ですか?」
「…………」
これまで涙を拭っていたハンカチで、今度は口を覆う。
いかにも、何かを隠している素振りだ。
「もしかして、私のことを知っているのと関係が?」
ぐしゃぐしゃだった顔が、彩矢香の問いかけで一気に強張る。
「あなたがここに来るのは運命としか思えない。サチにも言ったことのない事実を話すことは、私の贖罪になるのかしら……」
そして、ついに重い口を開いた。
「サチの父親は……宝泉賢矢、あなたのお父さんよ。あなたとサチは、腹違いの姉妹なの」
「え゛⁉」
「ッ⁈」



