「どうぞ、入…」
ドアを大きく開け、そこで初めて彩矢香と目が合った母親。
「あなた⁈」
今度は、彼女が絶句していた。
「もしかして、宝泉彩矢香さん⁉」
「え、えぇ。どうして私の名前を?」
「…………」
ドアの支えを僕に託し、何も答えないまま奥の一室に消える。
「「お邪魔します」」
家の中は乱雑極まりなく、まともな生活を送れていないのが手に取るようにわかる。
だが、あるモノだけが綺麗なまま置かれていた。
それは写真立ての数々。しかし、被写体に目を疑う。
華奢でかわいらしい笑顔を見せる小さな女の子と、聡明に微笑むとても美しい女性。
僕が知っている大貫とはまるで違うし、今や母親は見る影もなく劣化している。
「あの娘はこっち」
左手の襖が開くと、奥にも和室があった。
そこら中にお酒の缶が散乱し、小さなテーブルにはカップラーメンの残骸ばかり。
異臭と、充満した煙草の臭いや線香の匂いが混ざって、激しく鼻を突き上げる。
「ゥ゛……」
「大丈夫?」
「ぅ、うん」
生粋のお嬢様には到底理解出来ない有り様だろう。
「ここよ」
参考書が山積みになった学習机。その真ん中に、白い覆いで包まれた大きな箱と大貫の遺影があった。
見上げた壁には、クリーニングのビニールに包まれたままのセーラー服が2つ掛かっている。
——……。
僕らは、母親の傍らで手を合わせた。
目を閉じて偲びながら、彼女はもうこの世にいないという事実を真摯に受け止める。
「お茶、淹れますね」



