静岡県焼津市。三大漁港の一つ、焼津港がある町。
車を降りた僕らは、まず辺りを散策した。
絶対に玄がいる。近くで僕たちを見張っていると確信があったからだ。
「もう行こう。やっぱり見間違いだったんだよ」
「……そうなのかな」
歩いているときから少しめまいがしていた。
ここ数日色んなことがありすぎたし、十分に睡眠も取れていない。
蓄積された疲労が、玄に似ている人物を誤認したのか。
「ここだ……」
彩矢香はメモした紙を見ながらつぶやく。
対象の建物は、老朽化によって鉄が錆び、防犯設備など何一つない2階建てのアパート。
手すりには触れないように階段を上がり、ほぼ真ん中に位置する一室のチャイムを押した。
ほどなくして鍵が開き、古びた扉がギィっと音を立ててこちらに迫る。
「ぁ……」
先手を打ろうとした僕は、中から出てきた女性の風貌に、思わず絶句した。
長く手入れを施していないであろう髪、爪。
乾燥とシミの際立つ肌。
涙袋が垂れ下がり、白目が黄ばんだ瞳からはまったく覇気を感じ取れない。
まるで、立っている抜け殻だった。
同じ性別に属する彩矢香でも、その見た目の凄惨さに言葉を失っている。
「どちらさん?」
「僕らはその、サチエさんの中学の友人で、よろしければ線香を……」
「お友達? あの娘にもいたのね」
あのコ。この人が大貫の母親か。



