2014年、11月5日。

廊下に射す光の中へ飛び込むと、主治医や数人の看護師に囲まれたベッドの上で、目がうつろな新八の姿を捉えた。

「新八さん!」

肩を揺らして声を掛ければ、天井の白熱灯から俺の顔に焦点を合わせる。

「け゛……ッ……」

従事するスタッフに慌しさはなく、すでに来たる時を待っているという雰囲気。

「約束したじゃないですか! 磨理子さんの分まで生きなきゃ……そうでしょ?」

俺の言葉に、新八は瞼を激しく揺らす。

沙奈はシワくちゃな手のひらを握って乞う。

「お願い……逝かないで」

彼は小刻みに震える指で沙奈の涙をぬぐい、かすかに笑った。

「新八さん⁈」

その反応に、快方への期待が湧く。

「ッ゛……ぁ」

必死に何かを語ろうとする唇。

ひとりの看護師が、そっと人工呼吸器を取り除いた。

一言一句聞き逃すまいと耳を近づけると、弱々しい息づかいが俺のえりあしを揺らし……。

「ソファーの……中に」

「……ぇ⁉」

――ピーーーーーーーーーーー。

謎に満ちた言葉を搾りだし、兵藤新八は静かにこの世を去った。

「ッ…………」

「グズッ、ィヤ」

力を失くした手のひらに頬ずりをする沙奈の横で、俺はめくりめく回想の虜となる。

新八の存在は、俺たちにとって希望の象徴だった。

目の前で死んでゆく仲間、信じていた者に裏切られる哀しみ。

でも彼だけは死なずにいてくれて、俺たちを裏切ることもなかった真っ直ぐな人。

しかし、今、哀しい過去へと変わる。