「おばちゃん、いつもみたいに繕ってよ」

「あいよ!」

俺はそこで初めて、財布を忘れたことに気付いた。

「ごめーん! いつも妻に任せてたから……」

「別に今度でもいいんだよ。どうせ月に一回来るだろ?」

「そういうわけにはいかないよ。一旦、財布取りに戻るわ。花はそのままにしといて!」

「あいよ。律儀だね~」

愛車の軽トラに乗り込み、家へと続く道を進む。

閉めたはずの古い門扉が風に揺れているのを見て、エンジンを止めた。

「おかしいな……」

家の中に入ると、妙な違和感はさらに増す。


――……。


誰もいないはずなのに、人の気配を感じる。

「誰かいるのか⁈」


――……。


耳を澄ませて聴こえてくるのは、時計が時を刻む音だけ。

思い過ごしだと靴を脱いで居間に向かう。

何の気なしにスッとふすまを開いて、

「ッ⁉」

絶句した。

目の前に見知らぬ男が立っていたから。

「だ、誰だ⁉」

相手は逃げる様子も一切なく、俺をただじっと見ている。

「待ってたで」

一歩、前に踏みだす男。

「な゛、俺を⁈ 目的は何だ!」

俺は一歩下がって問う。

「目的? カノジョを手に入れるためや」

「彼女⁈ ま、まさか沙奈を⁈」

「……フッ」

男が不敵に笑った、次の瞬間。

――ドゴッ゛!

俺は背後から衝撃を受けた。

床に倒れ、薄れゆく意識の中、俺を殴ったであろう男が見下ろして言う。

「あかん。えらいドツいてし…も………たわ——」