運命の合格発表。
案の定、母は
『サチなら大丈夫だから』
と、付き添いをやんわり拒否する。
あの調子じゃ、きっと入学式も来ないだろうな。
そんな予感がしていた行きの電車内、
『ヤバッ……ホント緊張する』
隣に座るそらは、私以上に張り切っていた。
『……そうだね』
本音を言えば、不合格であってほしい。
毎晩のように夜食を作ってくれた母には申し訳ないけれど、やっぱり私のことを自分のことのように思ってくれる彼女の傍にいたいから。
『受かってるかな……』
手応えは十分すぎるから、いまさら後悔しても遅い。
なぜ入試の日、手を抜かなかったのかと。
だって、筆箱に書かれたメッセージを見たら、そんなことできなかった。
もし不合格をもらえるとしたら、面接の時に大きなマスクを外さなかった母への心証に賭けるしかない。
口数が少ない約1時間、良心を逆なでする期待は胸の内で膨らんでいった。
しかし──。
『さっちゃん! あった! ほら、あるよ! 385番』
『……ぁ、受かった』
そらは、その場でアフリカの民族のように高く跳ねる。
『やったぁー、さっちゃん! 努力した甲斐があったね!』
『うん……』
歓喜の温度差。
この瞬間、離ればなれへのカウントダウンが始まった。
表情には出さなかったが、合格の嬉しさより、別れの切なさが上回っていた。
故に、不安と寂しさから、帰りの電車ではたくさんの約束を取りつける。
その思いは、どうやら彼女も同じのようで……。
『うち、さっちゃんがレベルを下げなくていいぐらい勉強がんばるから、高校は一緒の学校に行こっ!』
『わっ! 絶対楽しい!』
『あと、あとさ、文通しようよ!』
『うん! するする! 毎日でも書く!』
『そ、それはやめて! 読んだら返事したくなっちゃうから、勉強できないじゃん』
『フフッ、そうだね』
この日から私たちは、卒業までの毎日を共に過ごした。
音楽を聴きながら芸能人の話をするごく普通な女子の時間。
人混みは苦手だったけれど、そらと一緒ならどこにでも行けた。
お互いに買った食べ物をいつも半分っこして、ふたりとも肉まんで笑ったこともある。
同じベッドで眠った夜、そらの温もりに泣いてしまったのは秘密。
そのすべてが、枯れることのない記憶の押し花。
私の人生のしおり。
そして、迎える惜別のとき。



