ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】




「彼女、もとの状態に戻らなかったみたいだね」

「……あぁ」

「でもさ、キミのおかげで、ひとつの命が救われたんだ。そんなにヘコむなよ!」

「…………」

彼はわざわざとなりに椅子を持ってきて、素直に喜べない俺とともに夜明けを迎えた。

肩がぶつかることは一度もなかったのに、ずっと優しさに触れていたような気がする。

それは、久しぶりに味わった“友達”の感触だった。

「これから、どうする? もちろん、まだあきらめてないんだろ?」

「ぁ、当たり前だろ!」

「じゃあ、一緒に沙奈ちゃんの呪いを解く方法を考えようぜ!」

まんまと奮い立たされ、待ってました!と言わんばかりに微笑む祐一郎。

「そうだな。とりあえず……」

俺は、引き出しにしまっておいた日記を取り出す。

「これを返しに行かなきゃ」

娘の形見として、母親が大事に持っていた品。

このまま、ここに置いておくのは忍びなかった。

「じゃ、僕も行っていい?」

「え!? ……本気?」

「うん、マジ!」

俺は勢いにのまれず、判断を保留した。

決めるのは俺じゃなく、磨理子さんの母親だから。

廊下があわただしくなる前に、看護師の目を盗んで病室を抜け出し、難なく病院から出る俺たち。

ファストフード店で軽めの朝食を摂って、電池残量の少ない携帯で電話を掛けた。

等間隔で鳴るコール。

俺は思わず、苦笑した。

「なんで笑ってんの?」

『いや、ちょっぁ……すみません、こんな朝早くに』

名前と用件を伝えると、電話を本人のいる階に転送してくれた。

「約束してたんだよ。今度行くときは、前もって連絡するってさ。それを今、思い出して」

「僕が行くって言わなかったら忘れてたんだ?」

「ま、まぁ……そういうこと」

保留音を聞き流しながら会話をしていると、

『もしもし? 大橋くん?』

磨理子さんの母親が息を切らしながら電話に出た。

よっぽど楽しみにしていたのだろう。

それを裏切るわけにはいかない。

『これから、そっちに行こうと思ってるんです。この前、約束したでしょ?』

『まだ1週間も経ってないのに? すごくうれしいわ!』

俺が気まずそうに眉を撫でると、祐一郎はストローの袋を丸めて投げてくる。

『それで、あの……今日は僕の友人も一緒なんですけど、いいですか?』

『ええ、全然構わないわよ。にぎやかな方が楽しいじゃない』

快く了解をもらい、俺たちは人里離れた病院へと向かった。