ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】




自慢じゃないが、俺は真面目な方だと思う。

家業が酒屋なのに、酒を飲んだことはないし、父親がヘビースモーカーだからってタバコを吸ったこともない。

悪さといえば、小学生のときに、クラスメイトだった女子のスカートをめくっていたぐらいだ。

であるからして、真夜中の病院に無断で侵入するのは勇気が要った。

「気味悪いな……」

怖いという意味でも。

巡回の目をかいくぐりながら、どうにかたどりついた沙奈の病室。

音を立てないよう、静かに扉をスライドさせる。

「沙奈?」

シーツの端から見える足先。

「起きてる?」

俺の問いかけに対し、彼女は見事に応えてくれた。

「デマツコトゴゼンサンジサンプンサイショノオニガダルマサンガコ……」

「沙奈……」

目を見開き、いつものように掲示板の言葉をつぶやく。

「ハァ~」

……甘かった。

窓際の壁に背中をつけ、手のひらだけで顔を洗う。

そう。鏡が割れて、磨理子さんが消えたとき、俺は期待したんだ。

呪縛から解き放たれ、愛すべき沙奈に戻ったかもしれないと。

だが、結果はご覧のとおり。

新たに見つけたのは、カリソメの終結。

すべてを終わらせるには、怨念を浄化させる必要があるようだ。

日記は、隅から隅まで目を通したつもり。

あの中に答えが眠っているとは思えない。もう。

……またフリダシか。

希望が崩れ去り、椅子に座ったまま途方に暮れてしまう。

――ガラガラッ。

「やっぱりここに来てたのか……」

午前4時の来訪者。

驚いたが、悲鳴をあげる元気もなかった。

「キミのことだから、大事な彼女のところだと思ってさ!」

軽快な口調で現れたのは祐一郎。

「ピンちゃんにはあれから何も起こらなかったよ」

「そっか……」

「あいつ、キミに会ってお礼を言いたいって」

「……うん」

招き入れたわけでもないのに、祐一郎はズカズカと俺の哀しみに土足で踏みこんでくる。